バーテンダーに嫌われるBARの嗜み方
「ぼくは店を開けたばかりのバーが好きなんだ。
店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかもぴかぴかに光っていて、
バーテンが鏡に向かって、ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。
酒のびんがきれいにならび、グラスが美しく光って、客を待っているバーテンがその晩の最初の一杯をふって、
きれいなマットの上におき、折りたたんだ小さなナプキンをそろえる。
それをゆっくり味わう。
静かなバーでの最初の静かな一杯、…こんな素晴らしいものはないぜ」レイモンド・チャンドラー 「長いお別れ」
昔々、ハタチそこそこだった僕はテレビでこんな言葉を耳にしたんだ。
「理系学生はコミュニケーション能力に欠ける」
そんな事を言っていた。自分自身は文系な友達もいなかったこともありその意味が良く分からなかったが、スキルが無いと言われてしまったのであればそれを解消しなくてはならないなという考えが頭をよぎり、次の日にはバーテンダーのアルバイトに応募していた。
働いていたバーは、カウンター10席程度しかないこじんまりとしたクラシックなショットバーで、バーのいろはを教わる事になる。
バーと言うのは難しいもので、自分に合う店(マスター)との出会いというのはなかなか無い。そんな訳で、バーテンダーのバイトをやめてからもう11年とか経つのだけれど、未だに常連みたいなショットバーには遭遇していなかった。ついこの間までは。
近所を歩いていると、見慣れない店が目に入った。小窓にびっしりと並べられたリキュールの小瓶。黒く塗られた壁の中に浮かび上がる細長い小窓から店の中が見えた。どうやらノーゲスのようだ。どうしようかなと思ったが、勇気を出して入ってみた。初めてのバーというのは緊張する。
店内はカウンター10席程度の小さな設え。酒瓶が並ぶ陳列棚の前に佇むのは40台くらいの短髪のマスターだった。
見た目はイカツイ感じの一見無愛想なマスター。ホワイトレディを頼んで、ジャブを打ってみる。(シャブじゃないよ)
僕「この店いつからあるんですか?」
マスター「もうすぐ5年になります」
僕「・・・」
結構前からあるじゃない。どうして目に入らなかったのかと自分の視野の狭さに焦りながら、この街の客層について訪ねてみた。居酒屋はたくさんあるのだがバーと言って思い当たるのは片手に収まる程度だ。もう少しあってもよい気がするなと感じていたから。
バーってどんな場所だろうか
僕の中にあるショットバー像は、お客さんは思い思いにその場所をお酒と一緒に楽しむ場だ。
ただ、好き勝手に楽しむというのとは違い、そこには他のお客様もいるのだから、お互い気持ちよく飲める範囲でというのがルールだろうと思う。
マスターと話をしていると、こんな話を聞くことが出来た
- 1人でお酒を嗜む事ができる人が少ない。少し手持ち無沙汰になると、すぐ電話で人を呼びたがる
- 不必要に人との距離を縮めたがる。気になるお客さんがいたとして、その人が帰った後に個人情報を聞き出そうとするのは無しでしょう
- 居酒屋のジントニックとバーのジントニックの値段を直接比べて「高い」という
- (そうしないと儲からないというのは当然あるが)バーテンダーもバーテンダーで、客に媚びるからバーの嗜み方を知る客が減る。
- 田舎もん根性が凄い街だ。この辺で俺のことを知らない奴はいない、というような接し方で来店するお客がいる。(確かに地主さんみたいなのはいて、お祭りなんかでは中心になっていたりもするし、多少はそういう事はあるだろうなとは思う)
バーって人と人との交差点みたいな場所だったりするので、人の話を中心に聞くことになったのだけれど、マスターの理想とするBAR像はなかなかにストイックだったし、僕は好きだけど敷居が高いなと思う人が多いだろうなとは思う。
それでもなんでこの街でやってるのかと問えば、そんな街だからこそ変えていきたいという想いがあるんだそうな。頑張って欲しい。
僕から嫌われるバー
最初にも書いたが、BARが完全に無い街な訳ではない。ただ、僕にはあんまり合わない店でいつも行く店にはならなかった。
- どこからどう見ても本を読みに来てるのに話しかけまくってくるバーテンダー
- テレビが置いてある
落ち着かないんですよね。1人で行く店でそれだと辛いなと思うので、先のマスターのような基本的には寡黙なバーテンダーみたいな感じが好きです。話したいことがあれば自分から話しますよ。