六次産業化の為のちょっと過激な施策提案
六次化人材の研修を受けていたわけですが、本日付けで震災により実施不能になってしまった実地研修のレポートをまとめて提出したので、その中から抜粋してみます。
- 「六次化人材プロジェクト」に参加しています@宇都宮一日目レビュー:モジュール1
- 一日目モジュール2:農業・農村の六次産業化とはなにか?
- 一日目:モジュール3:農山漁村活性化に向けた様々な連携
- 六次化育成二日目:モジュール1:食品加工と衛生管理
- 六次化人材三日目:モジュール1:加工特産品開発の時代の到来:新商品ブランディングの実体験から
- 六次化人材三日目:モジュール2・3:フードコミュニケーションの考え方、進め方
- 六次化人材4日目:モジュール1:食料・食品のマーケティングの基礎知識と着眼点
- 本当にブランド化が必要なのだろうか
以下、抜粋版です。
現状より「儲かる農林漁業を実現する」ということ
儲かるという言葉は曖昧である。現状からどの程度収益性が向上する事が現場から求められる事だろうか。5%収益が伸びれば儲かっていると言えるかどうか、それは分からないので、単純化のために「現状より儲かる農林漁業を実現する」ということを最終目標として議論したいと思う。農林漁業者が今より実入りが増えれば良いのだ。ただし、それは一方で先ほど触れた市場参入他者の利益を奪取するという事に他ならない。果たしてそんな事が農林漁業をやりながら可能だろうか。成長の規模感は、先ほどの5%成長を念頭に入れれば、農林漁業において6000億円生産額が向上すれば良いと考えられるだろう。
「現状より儲かる」を実現するためのアプローチ
アプローチとして考えられる事にはどういうベクトルがあるだろうか。
現在国が主導するように六次化により販売額を向上させ利益を上げていくのが一つ。
もう一つは、生産コストを低減し、売上は変わらなくても利益率が向上するというもの。
もう一つは、それらを両方を実現するということになる。
潤滑油として活躍するのが六次化プランナーであるならば
先ほどの6000億円という数値を考えるとすると、六次産業化というのは、農林漁業者が一体となって取り組むべき課題であり、それこそが本質であるはずである。農林水産省資料(6次産業化の取組事例集【123事例】(平成22年6月))には123の事例が取り上げられているが、これだけではまだまだ6000億円規模には足りない。ただ、逆に172万7千あると言われる農林業経営体(2010年農業センサスより)が全体として成長する事を考えれば、各戸が34.7万円売上を伸ばせば良い事になる。これなら実現できない数字ではないのではないだろうか。
今求められているのはウルトラCではない、アタリマエの事を実行に移す事だ
六次産業化というと、とにかくヒット商品を作って売り出す必要があると考えがちだ。ただ、ヒット商品というのは年に何十万も生まれる類のものではないし、そうなってしまえばそれはもはやヒット商品ではない。六次産業化で求められるのは、これである。逆に、ヒット商品を生み出すことで周辺の農林漁業者が本来得られるはずであった収益が一極集中してしまうという事も大いに考えられるため、ヒット商品偏重での六次産業化の考え方は危険である。
六次産業化の方向性についての懸念
加工までを農林漁業者が自らやるということは、二次産業である加工業を一次産業事業者が兼ねるということになる。単純に考えれば、一次産業事業者としては収益が伸びるかもしれないが、日本の産業全体として「車輪の再発明*1」になっていると言わざるを得ず、こう言ったやり方は非効率極まりないのではないだろうか。これをやらざるを得ないということであれば、そもそもの二次産業が利益の取り分を取り過ぎてきたという産業構造の歴史上の問題であり、六次産業化として加工業をすすめるというのは、正直なところお勧めしたい分野とは言えない。それであれば、農林漁業者は一次産業の生産について追求し、二次産業従事者は加工業について追求するという方が効率がよく、よりよいものを生み出す原動力に成りうるはずである。六次化プランナーとして食品加工という形で収益向上を検討するのであれば、一次産業事業者が生産する作物についての売りを明確にし、加工商品として生産した時に利益が確保できるような商品企画をきっちりと行うことで、一次産業事業者と二次産業従事者の取り分をうまく調整するという立ち位置を作ったほうが効率が良いだろう。企画と生産事業者をセットで二次産業に売り込むという形を提案したい。
生産コストの低減と、消費者囲い込みを実現するアプローチ
先にも書いたとおり、六次産業のマーケット規模は急には拡大しない。ましてやこの景気であるから、規模が縮小していく可能性も考えられる。その中で一次産業事業者の収益性を向上させるアプローチとしてもう一つ提案したい事がある。それは「徴兵制度ならぬ、徴農・徴漁制度」の導入だ。
国が本気で一次産業を守り、発展させていくというのであれば、もはややりたい人だけがやれば良いという段階であるとは考えにくい。一次産業事業者は農業にしろ漁業にしろ、高齢化が進み担い手も減少している。それを覆すには、国民全体で取り組むしか無いのかも知れないという極端なアイデアである。
徴農・徴漁制度のメリット
若者が全国の農林漁業村に出向き、一次産業事業者の元で生活をするようになる。当然、農業の生産コストは大幅に低減するだろう。人手が圧倒的に増えるために、今までやりたくても出来なかったという方向の取り組みも加速することが考えられる。各地で継承されるノウハウは、若者によってインターネットを通してシェアされ、情報の交流が加速する。今まで分かりにくかった問題点がクリアになり、それに対するアプローチも結果として増えるだろう。
一次産業事業地域の活性化と消費者の囲い込み
また、徴農・徴漁制度を行うことにより、若者全員に第二のふるさとが出来ることになる。つまり、消費者囲い込みがそこで完了するのである。自分が汗水たらして努力をした農村の生産物を、自分が大人になってからも買い求めるようになるというのは想像に難くない。現在、各地域が独自で行っている顧客囲い込み戦略や、ネットマーケティングのような、本来得意としない分野への努力負担を0にすることが可能だ。
また、徴農・徴漁制度による生産物は、国が一手に買い上げ、販売サイトを通じて販売するようにすれば良い。まず最初に、自分の子どもを送り出した親御さんが、自分の子どもが作った地域の生産物を買うようになるだろう。徴農・徴漁から戻った子どもたちが大人になれば又然りである。
つくるべきは制度と販売のインフラだけであり、マーケティングコストが0に抑えられる。地域に行ってしまえば、それが一番のコネクションだからである。
一次産業事業者は、本来の一次産業に集中ができるし、若者の育成にも力をいれるようになるだろう。若い頃の体験は、何時までも影響をあたえるのが人間である。プラスの流れがつくれるのではないだろうか。
六次産業化に必要なのは何か、ベクトルを間違えてはいけない
再度ここで挙げたいのは「車輪の再発明」になってはいけないということだ。今ある物を一次産業事業者がやることで収益性を向上させるというのは、社会全体としてみれば全く意味がない。それで増えたように見える収益は、結局は二次産業事業者から奪取したものに他ならないからである。
六次化プランナーに求められるのは、幅広い知識と、現状を疑う眼差し、一次産業事業における矛盾の発見、次代のニーズを見据えた提案、新規制度についての検討と実施等である。
今あるものを疑い、改善できる点を積極的に改善していく。これを国がバックアップするのだ。既得権益で守られたブラックボックスをクリアにし、虐げられざるを得なかった一次産業を解放していく。
新しいアイデアを発明し、従来価値がつかなかったところにヴァリューを付ける。それこそが求められる行動だ。
一次産業事業者にさらなる負担を強いてはいけない。それは出来る人しか出来ないからだ。大きな飛躍を、労働集約的に発展させてはならない。時間の投資で目の前の壁を超えていくような取り組みでは、体力のないものは付いて来れなくなってしまい、一次産業事業者全体で取り組むというヴィジョンには到底達することが出来ない。
本気で六次産業化を考えたからこそ発展する輸出の拡大
従来でも日本の作物は高い評価を得ているが、この六次産業化を通して、さらなる価値の創造につながる事が出来るのだ。今まで当たり前に活動してきた一次産業事業者に、他の分野の人間である六次化プランナーが関わっていくことにより、新しい価値が生まれる。価値を産み、一次産業事業者が自分の事業にもっと専念する時間を作り、より良い生産物が生まれるのだ。
これを粛々とアピールし、輸出を拡大する。
生産コストは徴農・徴漁制度により圧倒的に抑え、海外とも渡り合える生産物を送り出そうじゃないか。
*1:車輪の再発明(しゃりんのさいはつめい、英: reinventing
the wheel)は、車輪を題材にした慣用句であり、世界中で使われている。「広く受け入れられ確立した技術や解決法を無視して、同様のものを再び一から作ってしまうこと」を意味する。(出展:Wikipedia)